もう10年前の話になりますが、腰椎を骨折した経験があります。サーキット走行中の大クラッシュが原因でした。レーシングカートでの練習走行中の出来事でした。
翌週に開催される予定だったレースには僕はエントリーしていませんでした。ただ、レースを見据えたエントリー者ばかりで、中身の濃い練習ができるいい機会だということで走行したのです。
クラッシュによる大怪我をしたのは2013年6月30日の少し蒸し暑い日曜日の昼でした。
自分にとっては忘れてはいけない事故ということで少し振り返ってみます。
【結論】大きな病気や怪我からの回復は信頼できるドクターとの出会いが鍵
今回はたまたま地元ではない場所で大きな怪我をして、運ばれた病院に素晴らしいドクターが所属していただけです。
鈴鹿サーキットで大きな怪我をして、運ばれたのは鈴鹿回生病院。
地元では知名度も信頼度も高い、素晴らしいドクターとの出会いに恵まれただけです。
今回、腰椎破裂骨折で大怪我をしましたが、完治は「ふくしま整形外科クリニック」を開業されている福島達樹先生のおかげです。
クラッシュの状況説明
路面コンディション
当日の天気は晴れ。すでに初夏の6月末、ヘルメット、レーシングスーツを身に付けて走行すれば、かなりいい汗をかくほどの天候です。
かといって真夏のようなうだるような暑さはありません。
脱水症状や熱中症になるようなことはなく、健康上の問題は全くありませんでした。
当日は走行台数が多く、エンジン(カテゴリー)ごとにクラス分けがありました。
15~20分を1セッションとして練習走行が行われていました。
僕はAvantiクラス。
KT(YAMAHA)クラス、MAX(ROTAX)クラスとの混走でした。参加台数は多かったですが、多すぎて走れない、走りにくいなどは感じませんでした。
むしろいつもと何にも変わらない練習走行の日でした。
最高速だけでいえば、KTクラスとMAXクラスの間にあるのがAvantiです。
ブランク明けの走行
僕は約2ヶ月ぶりの走行でしたが、大きなブランクとは思っていません。とはいえ慢心があったわけでもありません。いつも以上の心構えで臨んでいたつもりです。
2013年は、カート競技人生で初めて新車を購入したシーズンでした。
しかし、自分の技量不足もあり、新車をうまく乗りこなすことができなくて、焦りがあったのも事実。
当日も、いまひとつのラップタイムを重ねていました。
セッション中もいろいろ考えながら走っていました。
でも、うまくタイムに結びつけることはできません。
そんな時に、ちょうど前に現れたのが、(エンジンが)格上MAXクラスのチームメイトでした。過去にシリーズチャンピオンに輝いたこともある実績もエンジンも格上の速い先輩ドライバーです。
この日は彼自身も、うまく乗れていないドライバーの1人でした。
なんとか少しでも食らいついていくことができれば、自分の走りも変わるかもしれない。
そんな一筋の光にすがりつきたかった、結果を出したかった、そんな思いだけでした。
鈴鹿サーキット南コースのコース図
モビリティランドのホームページからコース図を引用しました。
僕にとってはどのコースよりも走り慣れた鈴鹿サーキットの国際南コースです。
クラッシュした場所は最終コーナーを立ち上がって、アクセル全開のメインストレート。
場所的に、見通しは全く問題ありませんでした。
公式ホームページの図で見ると、『F地点』を通り過ぎて、トイレがある辺りを通過したあたりです。
チームメイトの先輩が前、僕が後ろ。
車間はほぼなし、インコース側を2台の連結車両状態で走行していました。すぐ後方を走ることで、スリップストリームが得られます。
そのため、ラップタイムの改善も少しだけできました。先導してもらうことで、次のラップタイムの改善にも期待できました。
「まだまだ上積みが足りない」との思いだけで気持ちに余裕がないまま数ラップを重ね…結果的にアクシデントが起きてしまいました。
前を走る先輩がいきなりフラつき、コースの内側ではなくコースアウトするように左側に逃げたのです。
彼の背中しか見れていなかった僕には、恥ずかしながら全く状況が理解できませんでした。
視界から一瞬、先輩が消えて、いきなり目の前に現れたのは、横向きに停車していた別のカート。
事故後に聞いたのは、縁石に乗ってコントロールを失ったカートがコース外からコース上に戻ってきてしまい、停車したという状況でした。
僕の未熟なステアリング操作だけでは避けきれず、停車していたカートの横に追突してしまいました。
走行中のクラッシュは、今までにも何度か経験したことがあります。
ただ、今回のようにエネルギーが『0』のものに当たったことは、クラッシュパッド以外は経験がありません。
クラッシュして相手に乗りあげてしまったのも初めてです。
頭と胸を強打したかと思えるような、そんな強い衝撃でした。
今まで経験したことのない激痛に襲われ、他のドライバーの迷惑にならないように、なんとかコース脇に寄せることで精一杯でした。
クラッシュした瞬間に足の骨が折れたことはしっかり認識できました。
ただ、それ以上に背中が痛く、シートから自力で降りることはできませんでした。
医師の診断結果
クラッシュ後にサーキットの医務室に運ばれました。
その後、詳しい診察や治療ができないため鈴鹿回生病院(三重県鈴鹿市)に緊急搬送されました。
鈴鹿回生病院はサーキットから運ばれてくる患者も多いと聞いたことがあります。
また、土地柄としても整形外科領域には特に力を入れており、著名な看板医師が多い地元では有名な病院の1つです。
日曜日は当直の医師しかいないとのことで、詳しい診断は翌日に持ち越しになりました。
右足の中足骨が折れているのは専門外の医師が診ても確定。脊椎に関しては恐らく折れているが、今後の治療方針は主治医の判断を待ってほしいとのことでした。
脊椎は損傷の程度しだいで体に麻痺が出てしまう可能性のある大事な場所。
レース界でもたくさんのドライバーがアクシデントで半身不随を患ったり、後遺症に苦しんだり、大変な思いをされています。
正式な診断は、第一腰椎破裂骨折(LⅠ)と右中足骨の骨折(Ⅲ・Ⅳ)。
総合的に判断して腰は手術をした方がいいとのことでした。
医学的な用語で言えば保存療法ではなく、積極療法である外科手術を選択するということです。
手術内容
手術内容については除圧と後方固定。
足は、折れた際に大きく骨がずれており、ピンを通して補正してあげる手術(ピンニング)を行う必要があるとのことでした。
手術は、うつぶせの状態で腰椎からスタート。
まずは砕けてしまった腰の骨を除去するところから始めます、これを除圧といいます。
僕の場合は砕けた骨の一部が神経に触れ、触れた箇所で軽い炎症が起き、神経が腫れていました。
1ブロック(第1腰椎)のうちの2/3近くが砕けてしまったので、そこに人工の骨セメントを埋め込みます。
そして、体を曲げることで不意な圧力が掛かり、セメントが変形しないように固まるまでの間、上下の骨をボルトで固定して終了となります。
腰の手術が終わり次第、仰向けにして、次は中足骨のピンニング。
体外から針金を(骨の中に)通して完了、今回は3本の針金を使用しました。
腰と足の2ヶ所の手術は全身麻酔で、計5~6時間くらいの時間を要しました。
術後、3~4カ月は腰から鎖骨まである大きな硬性コルセットを着用することになります。
人工セメントが完全に固まるまでは、曲げることは一切厳禁です。
腰にかかる負担や痛みも小さくすることができるので、ベストな選択肢だったと思っています。
腰椎は、金具で固定する手術でしたが、1年後をめどに金具を抜く抜釘術を受ける必要がありました。
高齢の患者さんだと、リスクの方が大きいため抜釘術を受けないケースが多いようです。
当時、僕は30代前半。
体内で金具が折れたり、金具の上に骨が形成されたりするリスクを考えると、抜釘術を強く薦められました。
なお、数カ月経過したところで足のピンを抜きましたが、抜く際は麻酔を打ちませんでした。
理由としては、骨の中を通っているピンなので麻酔が効かないから。
2本目、3本目と抜いていくごとに痛みが大きくなっていったことと、ひどく出血したのは今でも覚えています。正直、あまり気分のいいものではありません。
抜釘術も無事に完了して、形式的には完治扱い
固定してあるボルトは術後に記念としてもらいました。今でも自分に対する戒めの意味合いで保管しています。
これを見ると、本当に後遺症が残らなくて良かったなと改めて思えてくるのです。
こんなに長いピンが自分の体内に入っていたかと思うと恐ろしくなるものです。
鈴鹿サーキットのオフィシャルには迅速に助けてもらい、的確な対応を頂いたことに感謝しかありません。
事故後にコースを訪れた際も心配して声をかけて頂いたり、本当に頭が上がりませんでした。
【もう一度結論】元・鈴鹿回生病院(現・ふくしま整形外科クリニック)の福島達樹先生には感謝しかない
現在は個人で、「ふくしま整形外科クリニック」を開業されていますが、当時の主治医である福島達樹先生には一番感謝しています。
こういったケガをするまでは、まったく名前すら知らないドクターでした。
ただ、患者や院内のスタッフからの評価はとても高く、最後まで面倒を見てもらえたことは本当に運が良かったです。
偶然の出会いとはいえ、ご縁には感謝しています。脊椎の関係でお悩みの方にはぜひ、おすすめしたいドクターです。
記事を書いた人
ちゃおんぱむ